2014/10/03

「合わせる」ということ



 「合わせる」ということについての、根本的な僕の考え方を述べてみます。

 よく「指揮を見て合わせる」「ソロに合わせる」「トップに合わせる」などという表現を使うことがあります。これらの言葉が持つ意味は、一体どのようなことなのでしょうか。
 デュオであれカルテットであれ、もちろん弦アンなりオケであっても同じなのですが、個人完結するのではなく複数人(もしくは複数パート)で演奏する場合について考えてみましょう。

 vioのような弦アンの場合、一口に弦5部といっても、常に全パートが対等に合わせるわけではありません。つまり、個々パートそれぞれがそれぞれを意識し合ってアンサンブルする場面以外に、たとえばヴァイオリンの2パートが合わせた旋律の下を、ビオラとチェロベースが下から支えるといったケース。これは高弦+中低弦によるアンサンブルであり、5声が上下2パートに分かれて役割分担するケースですね。

 あるいは1stヴァイオリンの旋律に2ndヴァイオリンとビオラといった内声パートが彩りを加え、その下をチェロベースがしっかり支える1+2+2パターン。

 もしくは1stヴァイオリンの主旋律にチェロの対旋律がからみ、内声2パートが厚みを加えベースが底辺を固める(1+1)+2+1パターンなど。

 いずれにせよ根底には常に5声の動きを意識する必要があることは当然として、その中でも特定パートに意識を集中して合わせなければならないことがある、ということを念頭に置かねばなりません。冒頭で述べた「○○に合わせる」の○○が誰であるのか、まずはここを明確にすることが、よいアンサンブルを実現するための第一歩だと言えるでしょう。

 では5声全体が「息のあった」演奏をするためにはどうしたらよいのでしょうか(たくさん練習すればよい、というのはここでは除外)。

 まずは初期段階、つまり慣れていないケースでは、他パートが演奏した「音」に合わせようとしてしまいます。これが最低レベル。出てきた音に対してそれを聞いてから反応するわけですから、物理的にも合うわけがありません。ズレてしまいますね。

 次の段階になると、体の動きや呼吸などの情報を処理して合わせるようになります。出てきた音という「結果」に対してではなく、出てくるであろう音を「予測」して合わせるわけですから、タイミング的に少し「合ったところもあったかもしれない」状態になります。今までの僕の経験だと、このレヴェルをもって「合わせる」ことだと思っているケースが多々あります。つまり、時間的に音の出を合わせられたらOKとする段階ですね。しかしこれだけでは実はまだ、本当の意味でアンサンブルが揃ったとは言えません。

 さらに進んだ段階になると、各奏者は音の出や切りといった流れだけではなく、音楽全体の雰囲気を「読む」ようになります。体の動き、呼吸などの情報から音の出るタイミングをはかることはもちろん、その音の向かう方向や向かうスピード、あるいは音符の意味・性格やカラー、その時の奏者の思惑や表現しようとしている感情などをくみとって、出てくるであろう音のキャラクターに合った表現を模索するようになります。こうなると音楽的な統一感が揃い、まとまりある演奏が実現されます。この段階ではじめて、本当の意味で「合わせる」ことができ、最高次元のアンサンブルが実現することになります。ここを目指すには、「技術」追求と「音楽性」追究という、2つの方向性が高いレベルで融合されることが必須となります。

 すなわち各パートそれぞれが十分に音楽を理解し、その流れを作ることができるようになっていること。相手の呼吸、動きなどの「情報」を活用すること。そしてその上で、各人が「こう演奏したい」というイメージを持っていること。

 これらすべてを兼ね備えていさえすれば、アンサンブル練習で行うことは、つまるところ各人の持つ音楽性の「すりあわせ」ないし「交歓」です。結果として、相手の演奏を十分理解した上で、自分は弾きたいように弾くと「合って」しまいました。…これこそが、本当の意味での「アンサンブル」なのです。

 では、さらに踏み込んで、より具体的な話を進めていきましょう。つまり「何を誰に合わせるか」ということです。

まず、「何を合わせるのか」について。整理してみると、おおむね
 ①音程
 ②リズム
 ③ダイナミクス
 ④音色
くらいに分類できます。これらが揃えば、一応、まとまりのよいアンサンブルに聞こえると思います。ではこういった要素それぞれを、「誰に合わせるのか」について。

 分かりやすいところで①音程です。ともすれば音程はメロディーに合わせるのが当然視されてしまいがちですが、僕は違うと考えています。思うに音程に関して言うならば、細かい音符の人が長い音符の人に合わせるのが基本であると。考えてみれば単純なことなのです。つまり、ロングトーンの音程を途中でコロコロ変えるわけにはいきませんよね?和声のグラつきは、すなわち音楽の崩壊です。メロディーに和声をあわせるという概念は、単なる都市伝説でしかありません。そうではなくて、その時点で最も長い音符を弾いているパートこそが和声物語の主役・骨格たるべきなのです。これは何度でも強調しておきたい点ですね。

 次に②リズムについてはどうでしょう?タテの線を揃えることも、広くはここに含まれます。こちらの方は、細かい音符の方に合わせるのが基本ですよね。細かい音符で細かくカウントしている以上は、最も正確なリズムを刻んでいるはずですから。

 ここまでは、比較的分かりやすいところだと思います。少し事情が違うのが、③ダイナミクスと④音色でしょう。

 ③ダイナミクスは、まず「低音と高音」のバランス、次に「メロディーと伴奏」のバランス、最後に「調性上、響きの安定を得る」ためのバランス、大別してこの3つだと僕は考えています。これらをクロス・チェックして妥当なところに落ち着くと、ほぼ完璧なダイナミクスが得られると思います。難しいのは、cresc.やdecresc.が出てくるところですね。低音と高音のバランス上、高音が出過ぎると響きが安定しないので(あえてそういう効果を狙う場合は別ですが)、cresc.は低音から先に上がり、decresc.は高音から始まって最後が低音が終わるように、音域によって多少頂点や底に到達するタイミングをずらすと、よりそれっぽく聴こえます。

 最後に④音色です。これについては、全体で一つに揃えるのか、役割に応じて意図的に異なる音色を並存させるのか、考えどころだと思います。つまり、全パート同じ音色で統一性を出す場合もあるでしょうし、メロディーは主役的な存在として大きなビブラートで豊かに歌うけど伴奏は事務的に淡々と構造再現だけを正確になぞる場合もアリでしょう。いずれにせよ、厳密には楽器の音色は一本ごとに違いますので、弾き方を揃える(駒からの距離とか、弓のスピードとか、弓先・弓元で弾くとか)という、テクニカル(技術的)な結論に帰着しますね。

 アンサンブルの練習をしていて何かしっくり来ないときは、これらの4つの観点のそれぞれについて互いの弾き方をチェックしてみることで、案外簡単に解決のきっかけがつかめるかも知れません。もっともそれ以前に個人練習不足ということも、現実には多いのですが。

 以上みてきたように、「合わせる」ということひとつとっても、何をどこにどのように?どこまで具体的にイメージできているかが大切なのだと。練習を組み立てる上で、このような事前準備=意識の置き所の明確化は必須なのだと思っていますから、vio練習の際にも留意して臨みたいところです。

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